リアホナ2005年10月号ハーバード大学教授の地域七十人,クリステンセン長老が来日

    ハーバード大学教授の地域七十人,クリステンセン長老が来日

    ハーバード大学ビジネススクールの教授であり,地域七十人としても活躍しているクレイトン・クリステンセン長老を招いてのシンポジウムが9月1日~3日に東京と大阪で開催された。東京での2回のシンポジウムは経済同友会と経団連が主催し,大阪でのシンポジウムは関西生産性本部が主催した。メディアの取材,家族を同伴しての旅行と多忙な時間を縫うようにして開催されたシンポジウムには,関東と関西においてビジネスリーダーとして活躍する総計800人以上の人々が集まり,現在,最も注目されるビジネス理論の研究者と言われるクリステンセン長老の言葉に耳を傾けた。

    ユタ州ソルトレーク・シティー出身のクリステンセン長老は,1971年から2年間,韓国で専任宣教師として働いた。ブリガム・ヤング大学を卒業後,1977年にイギリス・オックスフォード大学で経済学修士,1979年にアメリカ・ハーバード大学ビジネススクールにて経営学修士を取得した。コンサルティング会社に勤務した後,会社経営を経て,1992年に再びハーバード大学ビジネススクールで経営学博士号を取得。5人の子供の父親として「ワーク/ライフ・バランス」の大切さを強調し,ビジネスと家庭環境の重要性も説き続けている。現在はハーバード大学で教鞭を執るとともに,地域七十人としての奉仕活動,そして,シンガポール政府へのコンサルティング業務を行っており,バランスのとれた生活を重視しながら様々な分野で活躍している。「イノベーション」(革新/刷新)をテーマとした著書が多くのビジネスマンに支持されていることから,今回のシンポジウムも定員を超える参加申し込みが寄せられた。

    「わたしは末日聖徒イエス・キリスト教会の宣教師として韓国で伝道しました。韓国語は学びましたが,日本語は学びませんでした。」日本語による冒頭のあいさつで講演を始めたクリステンセン長老は,難解な研究を様々な事例とともに紹介し,ときに日本企業の具体的な成長例を盛り込んで,聴く者を飽きさせない。

    クリステンセン長老は講演の中で自身の信仰観や子供の伝道経験について語ることがあるが,それらの話題はビジネスと切り離されて独立した形で語られるのではなく,すべてが自然にビジネスの理論の中に組み込まれて引用されている。

    「娘がモンゴルで宣教師として働き,伝道活動が終わったときにわたしたち家族はモンゴルへ行きました。娘の伝道地を回り,市場へ出かけたときに安価なクーラーが売られている光景を見ました。その商品がモンゴルの経済活動の中で大きなシェアを得ている理由は……。」出席者の多くは,クリステンセン長老の背景に宣教師としての経験や家族とのエピソードがあり,それが研究の発想のベースとなってきたことを理解する機会が何度もある。

    シンポジウムの中でクリステンセン長老は「最後にわたしが経験から学んだ大切なことを伝えたい」と切り出した。

    「ビジネスの中では日々重要な選択に迫られます。仕事と家族を見比べたとき,会社に残れば仕事の処理が進み,皆さんのようなビジネスリーダーはすぐに収益を生むことができます。家族と過ごす時間のことを考えますと,どちらが良い結果をもたらすかは明らかなようにも思えます。しかも,仕事の代わりに家族を選択した場合,なかなか結果が出ません。ほとんどの場合は結果を感じるまでに20年ぐらいかかります。子供たちや家族からの要求にこたえるのはストレスを感じることも多く,ビジネスへのモチベーションを下げてしまう場合もあるでしょう。仕事と家族のどちらを選ぶかといえば,より収益をもたらすビジネスを選択してしまうのは当然かもしれません。

    しかし,20年が経過して自分の子供や家族に目を向けますと,『自分はなかなかすばらしい働きをした』ということが確信できます。利益をもたらすまでに20年もかかるものを選択するビジネスリーダーはほとんどいませんが,わたしの経験から,それは最も重要であり,適切な選択をしたと思っています。」──ビジネスを学ぶうえで「一流の環境の中で学ぶ機会を与えられてきました」と話すクリステンセン長老が,「最も大切なこと」として語ったその言葉は,ビジネスリーダーに対して強く「イノベーション」を感じさせるメッセージであった。

    「わたしはいつも教会の中でしか使われない言葉を自分の仕事の中で意識的に使うようにしています」と講演後のクリステンセン長老は語る。「わたしが監督の責任を受けているときに,オフィスで『昨日は監督の仕事が忙しくて疲れた』と話すと,『監督』の責任について話す機会が増えました。それによって自分が何を信じているのか,また教会員であることを伝えることができました。いつも意識的に教会の言葉を使って,それを説明してあげますと,『監督の責任の調子はどうですか』と日常会話の中で尋ねられるようになりました。まずは自分が教会員であることを周囲に理解してもらうことが大切なのです。」◆