リアホナ2007年6月号 教会に関連する映像作品の影響力── 映画に描かれた,福音と人生

    News Box 教会に関連する映像作品の影響力── 映画に描かれた,福音と人生

    アメリカの公共放送サービス(Public Broadcasting Service──PBSと略称)から全米に向けて,この4月30日と5月1日の2夜にわたり「The Mormons」と題する長編ドキュメンタリー番組が放映された。PBSは全米349の放送局につながる非営利の放送ネットワークで,主に教育・教養番組を放送している。この「The Mormons 」は,歴史学者や作家など学識者の見解と,教会の中央幹部を含む数多くの人々へのインタビューで構成された合計4時間にも及ぶプログラムである。第一部では,ジョセフ・スミスの最初の示現に始まる福音と教会の回復,聖徒の集合,そして反対者による迫害に次ぐ迫害,西部への脱出へと至る初期の教会の歴史がつづられる。

    また一般に誤解されがちな一夫多妻についても詳しく語られる。第二部では20世紀以降の教会歴史とその発展を採り上げる。伝道活動や,家族を大切にする教え,神殿の業といった教会の様々な姿を,それに伴う課題チャレンジや対立者の意見も含めて紹介する。ジャーナリズムとして中立の立場を保持するため,教会に批判的な視点も含めて構成したことは理解できるものの,その情報の扱い方に公正を欠くと思われる部分も見られる。しかし,教会の成長やその信条には基本的に敬意が払われた内容である。(この番組は5月現在,www.pbs.org/mormons/view/にてインターネットで視聴できる〔英語〕。)

    このように,近年,様々な映像作品で教会について取り上げられる機会が増えている。それは日本においても例外ではない。しかも,福音が人にもたらす影響力そのものを描いた作品が一般に向けて公開される機会が増えているのである。かつては,ケント・デリカット兄弟などの有名人を通して,「○○が通っている教会」と社会に認知されることが多かったが,そこに変化の兆しが見られる。

    グローバーグ長老の自伝が映画化

    この5月には,「幸せになるための恋の手紙」(原題:The Other Side of Heaven)という映画が日本においてレンタルDVDでリリースされた。2001年に制作され,アメリカでまずまずのヒットを記録したハリウッド映画である。これはジョン・H・グローバーグ長老(名誉中央幹部。1976年から2005年まで七十人第一定員会・七十人会長会で奉仕)の自伝を原作にしている。若き日のグローバーグ長老がトンガへの伝道に召され,帰還するまでの物語である。恋愛映画のような邦題が付けられているが,本編は宣教師の生活を真正面から描いたものとなっている。長い長い船旅を経て南太平洋の孤島へ派遣された宣教師のジョンが,婚約者ジーンからの手紙を心の支えに,アメリカとまったく異なる文化・風土の地にあって体当たりの伝道に取り組んでいく。教会の反対者に遭い,言語の習得に苦しみ,特異な風習に戸惑いながらも,島の素朴な人情に触れ,次第に人々と心を通わせていく。宣教師の経験者ならだれもが思い当たる,伝道地の人々を愛するようになる心の過程が丁寧に描かれている。

    グローバーグ長老は,中央幹部としての説教でしばしば伝道中の経験を語っている。1993年10月の総大会では,福音を求めている家族の住む島へグローバーグ長老を送り届けるべく,凪いだ海に手漕ぎのボートを出す年配の兄弟の話が語られた。そのエピソードはこの映画でも描かれている。(『リアホナ』1994年1月号,31。1998年3月号『フレンド』16も参照)また最近では2004年秋の総大会で,伝道地を襲ったハリケーンの経験について語っている(『リアホナ』2004年11月号,10-11参照)。これがこの映画のクライマックスとなる。ハリケーンにより農作物に甚大な被害を受け,食糧不足で餓死の危機に見舞われる島にあって,グローバーグ長老は神の愛を知るのである。

    福音によって癒される改宗者の実話

    「NewYork Doll」(ニューヨーク・ドール)は,2006年夏から秋にかけ,日本全国の単館系劇場で公開されて高い評価を得たドキュメンタリー映画である。カメラは,ロサンゼルス神殿に隣接する家族歴史センターの職員としてバス通勤する,物静かで控え目なアーサー・ケイン兄弟を追いかける。彼は,かつて1970年代に音楽シーンに登場し若者の熱狂的な支持を得ながら,わずか2年で解散した伝説のロックバンド「NewYork Dolls」のベーシスト,アーサー・“キラー”・ケインその人であった。──アーサーは若くしてロックスターとしての頂点を極めたが,その後の転落の中で薬物やアルコールに溺れ,離婚も経験する。やがて1989年,福音と出会い改宗することでアーサーの心にようやく平安が訪れる。しかし,アーサーはいつの日か,かつて喧嘩別れした仲間とともにバンドを再結成することを願っていた。やがてロンドンの音楽祭に招待されることで再結成の夢が現実味を帯び始め,メンバーとの再会と,念願の和解を果たす。長年の心のしこりが解けたアーサーは,ジョセフ・スミスをイメージした衣装を身にまとい,バンドのメンバーのために主に祈りをささげてからステージに臨むのだった……。

    この作品が監督デビュー作となるグレッグ・B・ホワイトリー兄弟はブリガム・ヤング大学で映画を専攻した。そしてかつてアーサー・ケイン兄弟のホームティーチャーだった。このドキュメンタリーは,ホワイトリー監督そしてアーサー自身ですら予期しなかった結末を迎え,観る者の心に深い感情の余韻を残して終わる。この映画はロック・ドキュメンタリーであると同時に,人生に何の喜びも見いだせなかった一人の男が福音によって変わってゆく過程を見事に捉えた,得難い人間ドキュメンタリーでもある。

    日本の一流の声優陣が教会の70ミリ映画吹替版に参加

    一方,教会が制作する映画の質も年々向上している。ソルトレーク神殿に隣接するジョセフ・スミス記念館には500席を擁する大きな映画館(レガシー・シアター)が設けられており,1990年代から訪問者に向けて教会を紹介する映画が上映されてきた。ここで最初に公開されたのは,教会が初めて制作した70ミリ劇場用映画「レガシー──大いなる遺産」であった。次いで2000年から2005年にかけて,「The Testaments:証──一つの群れ,一人の羊飼い」が上映される。この作品は最近,多言語版DVDとしてリリースされた。現在は3作目の劇場用映画「ジョセフ・スミス──回復の預言者」が上映されている。

    レガシー・シアターでは世界各国からの訪問者のために,多くの言語での吹替版をヘッドホンで聞くことのできるシステムが備えられている。従ってこれらの劇場用映画はソルトレークでの公開に先立ち,日本語吹替版が日本において制作されることとなった。

    1999年ごろ,「The Testaments:証」の日本語吹替版制作に当たり演出を務めた竹下心也兄弟は当時をこう振り返る。「翻訳原稿を口の動きに合わせた自然な台詞に直す作業から始まって,声優の手配,収録時の演出など,作業全般を担当させていただいた者としては実に感慨深いものがあります。主人公の声は劇団昴の平田広明氏。洋画の吹き替えでは主演級をこなす実力者で,『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・デップ演じるジャック・スパロウもこの人です。」

    劇団昴は,「すばらしい世界旅行」で知られる日本のナレーターの草分け・久米明氏などを擁する劇団で,声の仕事,とりわけ洋画の吹き替えには力を入れている。テレビ各局の洋画番組では,昴の劇団員数人が必ずと言っていいほど吹き替えキャストに名を連ねる。「そんな劇団の方々が,主役はもちろん,登場人物のほとんどを担当しているのだから,日本語版は少なくとも『豪華キャスト』であることは間違いないでしょう」と竹下兄弟は太鼓判を押す。映像面でも,綿密な考証による大規模なセットと特殊効果で再現された古代アメリカの都市など見どころは多い。「アメリカ大陸の大破壊とそれに続く復活したキリストの降臨,主人公の父が癒されるシーンは何度見てもこみ上げてくるものを押さえ切れません。」(竹下兄弟)

    教会制作の映像作品吹き替えは1995年当時,日大芸術学部で演劇を学んだ西堀健司兄弟とその友人を中心にキャスティングがなされていた。やがてスケジュール調整が困難になってきたのと,演技のさらなるレベルアップの必要もあり,西堀兄弟の大学時代の恩師,久米明氏が在籍する劇団昴に相談する。そのようにして,『家路』(On The Way Home)の父親役を皮切りに,昴声優陣の出演が実現した。劇団昴は,かつて財団法人現代演劇協会の一部(現在は有限責任中間法人)であり,その公的な立場から,ポルノグラフィー作品に関与することを劇団員に禁じているという。この出会いは導きであったと竹下兄弟は感じている。「今どきそんな劇団もあるのか,と感心しました。吹き替えのクオリティを上げるために,かくも清廉で志の高い劇団との巡り会わせがあろうとは予想だにしませんでした。」

    その後,「ジョセフ・スミス──回復の預言者」の日本語吹替版も制作された。この作品には,主役のジョセフやエマをはじめ,台詞のある役者がおよそ80人も登場する。これは教会制作の映画として過去最高の人数である。それらの声を演じたのは,劇団昴所属の23人に上るプロの声優であった。

    録音に際し,声優は通常,作品のビデオテープを事前に受け取り,吹き替えの練習をする。そうして録音当日には,映像にぴたりと合わせた演技をしてくれるのである。しかしこの「ジョセフ・スミス」録音に当たり,教会本部は作品の徹底した秘匿を求めてきた。声優へ事前に練習用テープを渡すことも認めず,録音当日に作品を見せることだけが許可された。日本語版の演出を務めた池田正美兄弟は以下のように回顧する。

    「そこで,教会のスタジオがある建物に,モニターとビデオデッキを置いた特設の練習ブースを3つ作りました。声優さんに,収録時間より少し早く来てもらい,台詞合わせの練習をしてもらうのです。要するに声優さんは,この作品の自分の役の部分しか観ていないのです。にもかかわらず,録音を進めるうち,多くの声優さんから次のような感想を聞きました。『この作品はとても美しいですね。すごくよくできています。何か心に訴えるものがあります。』そして,幾人もの方がこう言いました。『日本語版が完成したら,ぜひ見せていただけませんか。』それまで長年,劇団昴の声優さんとお仕事をしてきましたが,このように言われたのは初めてです。

    また,ある男性の声優さんは言いました。『末日聖徒さんのお仕事は,ほかの仕事と違います。やらせていただいていて,何か使命感のようなものを感じます。これは,ほかの仕事ではないことです。』──教会員であるなしを問わず,多くの人が,教会の映像作品から善なるものを感じ始めていると思いました。」ジョセフ・スミスの生涯を描いたこの映画は現在,ソルトレーク・シティーのレガシー・シアターでのみ公開されているが,この夏の全日本YSAカンファレンス会場にて特別上映されることが決まっている。

    これら教会制作の劇場用映画は,前提として教会に初めて接する人にも分かりやすいように作られているため,教会員でない家族や友人に紹介するには最適な作品と言えるだろう。

    昨年暮れには,モルモン・タバナクル合唱団を紹介するドキュメンタリー作品『ジョセフ・スミス200年目のクリスマス』DVDも教会外の一般企業から出版された(『リアホナ』2007年1月号チャーチ・ニュース,10参照)。映像作品によって周囲に教会を紹介する機会は着実に増えつつある。◆