リアホナ2006年12月号全国障害者スポーツ大会で金・銀メダルに輝いた姉妹

    全国障害者スポーツ大会で金・銀メダルに輝いた姉妹

    2006年10月14日から16日にわたって兵庫県で行われた第6回全国障害者スポーツ大会(国体のあとに開催される障害者の大会)で宇都宮地方部小山支部の阿部ちひろ姉妹が上位入賞を果たした。

    知的障害少年の部の立ち幅跳びで金メダル(記録201cm),走り幅跳びで銀メダル(記録378cm)を獲得したちひろ姉妹は,現在小山市内の中学校に通う中学3年生。多動性集中障害(ADHD)と診断されている。

    ちひろ姉妹の場合,音楽や美術,体育など右脳的な分野は大好きで,国語や社会など言語を介した学習が極端に苦手,また教室での集団学習が苦手なので,知的障害や情緒障害を持つ生徒を対象とするクラスで指導を受けている。

    母親の弘姉妹は「勝ち抜いて選手になったわけではなく,たまたまだれかの目に留まって……」と控え目に話す。二年生のとき,県の障害者スポーツ大会に参加していたちひろ姉妹を見たとある中学校の校長で県の体育教育のとりまとめ役の先生が,はしゃいで走り回っているちひろ姉妹を高く評価。「あの子はすごいバネを持っている。もったいない。ぜひ全国に連れて行きたい」と,ちひろ姉妹を県代表に推薦した。「何の実績もないちひろにチャンスが与えられたことは祝福です」と全国大会行きの通知を受けた当時を振り返る。

    ちひろ姉妹は見事期待にこたえ,自己記録を伸ばして金銀のメダルを獲得した。去る11月9日には県内の他の上位入賞者8名とともに平間幸男栃木県教育長を表敬訪問し,戦果を報告。引率の先生を挟んで平間教育長のいちばん近くに席を用意されたちひろ姉妹は,いつもどおりの朗らかな表情で20分以上にわたっておとなしく教育長や先生の話に耳を傾けていた。

    陸上競技を始めたのはいつごろか,との問いに,母親をはじめ,二人の姉,看護学校に通う結実子姉妹と高校2年生の有希姉妹は「だから何もやってないんです」と笑いながら声を揃える。運動と言えば体育の授業くらいで,春に全国大会の話があり陸上部への入部を勧められたときも入部しなかった。「運動部は安息日に練習や大会があるのでうちはなしにしました」と本人も家族も成果にしがみつく様子は微塵もない。

    障害を持つ人がいる多くの家族がそうであるように,弘姉妹をはじめ家族の全員がちひろ姉妹を特別な子とは感じていない。はたから見れば「落ち着きのない子」として2,3分の間おとなしくすることさえ困難だったちひろ姉妹。4歳のとき初めてADHDであることに気づいた弘姉妹は「わたしにとってはそれほど問題ではありません。ただ学校では大きな問題ですが……」と語る。

    「ちひろはいろいろなことを教えてくれます」弘姉妹のこの言葉は障害を持つ人により

    多く接する機会を持つ人々の気持ちを代弁する。ちひろ姉妹はとても純粋な心を持っている。「普通,心の底でつい計算してやってしまうこと,あるいはやらないでしまうことをちひろは本心からすることができます。」「親切にしよう優しくしようと意識的に努力しますが,ちひろは自然にそれができます。」「自分が悪いと分かってはいても悔しくて謝れないことがありますが,ちひろは素直に謝ります。」「普通ならちょっとだから分けられないと思う量のお菓子でも,ちひろはそれを半分に割ってさらにちょっとだけになったその半分をくれるんです。」家族の賛辞にはきりがない。

    のびのびと育てることと協調性や社会秩序の中で生活する力を養うことを両立させ,どこでバランスを取るかについては様々な考え方や手法があり,難しい選択を迫られることも多い。「ちひろの良さがなくなってしまわないようにしたい。」弘姉妹はちひろ姉妹の素直な天真爛漫さを大切にしたいと願っている。かつては甘やかしていると思われることもしばしばだった。しかし最近では,情緒障害についての理解が進んできたこともあり,周囲の人たちの助けと支え,そのような人々を周囲に置いてくださったことに神様の御手と祝福を感じているという。

    有希姉妹はちひろ姉妹と同時期に同じ中学校に通っていたことがある。有希姉妹の担任がちひろ姉妹のクラスの授業を受け持っていたときのこと。家庭訪問の折,担任の先生いわく,「有希ちゃんってほんとうに偉いですね。ああいう子を初めて見ました。妹や弟が個別教室に行っている子たちはちょっと伏目がちで,妹や弟が自分の教室に来ると,早く戻れと言ったり気がつかない振りをしたり怒ったりするんです。でも有希ちゃんには全然そういうところがなく自然に接しています。その姿を見て,クラスの子たちが障害を持つ子への接し方についてどんなに多くを学べたことか。」

    取材中,ちひろ姉妹が退屈したと見るや二つ年上の有希姉妹が自分のひざの上に座るよう勧める。ひざの上に座って抱きついたちひろ姉妹は携帯電話で写真を撮ったりはしゃいだり。自分とほぼ同じ体格のちひろ姉妹を嫌な顔一つせずひざの上に乗せ,抱える有希姉妹。ちひろ姉妹の屈託のない笑顔から有希姉妹を慕い安心している様子がひしひしと伝わってきた。◆